先送りされる課題 

さきごろ(2019年2月)発表された総務省の家計調査によると、家庭の消費支出が5年連続で減り続けているそうです(物価上昇分を引いた実質ベース)。もっとも最近は政府の統計があてにならないといわれていますから、ひょっとしたら実態と乖離しているところもあるのかもしれませんが、戦後最長の景気拡大と喧伝されている中でのこの数字ですから、少なくとも意図的に数字をいじっているというということはないとおもわれます。
それにしてもこの数字通りだとすると、景気拡大の中でも家庭の消費支出の減少が続いていることになり、これからの人口減少もあわせて考えると、これから事態は相当深刻になるのではないかと心配になります。

将来に向けて心配事はいろいろありますが、最も気がかりなのが、国の財政の再建が頓挫してしまうのではないかということです。順を追って説明します。

まず、『団塊の世代』のことです。

団塊の世代というのは、昭和22年から24年生まれの人たちのことです。戦後の第1次ベビーブームのころに生まれた人たちで、その数はおよそ800万人にのぼるといわれます。そういえば「団塊の世代」という言葉をつくった堺屋太一さんも亡くなりました。日本の経済や社会に大きな影響を及ぼしてきたこの世代の人たちも、2019年の誕生日で満70歳から72歳を迎えます。すでに年金受給者となっている世代ですが、定年後も現役で働いている方々も大勢います。その人口のボリュームゾーンの人たちが、いよいよ本格的に労働の現場から退場していくことになります。

そこでまず懸念されるのが人手不足です。

これから一気に深刻な人手不足の時代がやってきそうです。もっともこれは悪いことばかりではありません。人手不足は、特にパート・アルバイト・非正規雇用の賃金の上昇につながるはずですし、労働の現場では人手不足をカバーするため、少ない人数でも生産性の向上に知恵を絞ることになるはずです。

つぎに懸念されるのが消費の落ち込みです。

団塊の世代はこれまでは年金収入と定年後も働き続けることによる賃金収入のダブルインカムの人たちが多かったと思われます。ところがこれからは働くことをやめてしまう人が急速に増えます。そうすると当然、総収入が減りますから、支出を切り詰めていくことになるはずです。いままで毎年夫婦で海外の世界遺産めぐりをしていたような人たちも、お金ももったいないし、体もきつくなったから近場の温泉旅行に切り替えよう、ということになるはずです。通常なら、年配者が消費を切り詰めても、次の世代が消費を増やすので、増減なしとなるはずですが、この世代は人口のボリュームゾーンで人数がとても多いため、そのインパクトは大きいものがあります。結局、「団塊の世代」が消費を切り詰めることは、トータルの消費の減少につながっていくはずです。

国の医療費や介護費用の負担が増加する

団塊の世代がことし70歳から72歳になるということは、あと3年で団塊の世代が後期高齢者の仲間入りを果たすことになります。総じて団塊の世代は元気だとはいっても、加齢にともなってさまざまな体の不調が起きてきます。いままでは丈夫で健康保険料を支払うばかりだった人も、しだいに医者にかかる頻度が増えていきます。そしてこの世代は人口が多い分、医療費の伸びも急激になるはずです。いまの医療制度はいつまで持ちこたえることができるかわかりませんが、次に述べる理由で制度改革も難しいでしょうから、国庫負担の増加は避けられません。介護保険についても同様です。医療費の増加にやや遅れて、急速に増えていくものと思われます。

社会制度改革や税制改革が先送りされる

選挙での票が必要な人たち=政治家にとって、「団塊の世代」は、世代別では最大の票田です。ですから、政治家は「団塊の世代」の意向には逆らえません。ところが医療制度改革、年金改革、税制改革など、これまで将来を見据えて考えられているさまざまな政策提言の多くは、「団塊の世代」の利益に反するものになっています。たとえば医療費を減らすため高齢者の医療費の自己負担を引き上げようとすると、それは直接、団塊の世代の不利益になって跳ね返ってきます。年金の支給額を減額することは「団塊の世代」の死活問題につながりかねません。資産課税の強化は、こえまで老後のために蓄えてきて一定の資産を築いた「団塊の世代」にとって、自分たちを狙い撃ちにするものと映るはずです。畢竟、改革には手がつけられず、問題は先送りされます。こうして、まだしばらくは団塊の世代を優遇する政治が続くことになるのです。その結果、何が起きるか。つぎの項目で詳しく見ていきます。

この国の行方

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